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HOME>>コラム・書評・インタビュー>>書評一覧>>2001/04/10 <メルマガ21>7号掲載分 出版洪水に釣り糸を垂れる Book-Review Maya-Kimie Hirooka Maya Art Collection 『リプレイ』 REPLAY ケン・グリムウッド Ken Grimwood 訳者:杉山高之 新潮文庫 474頁 発行:1990年7月25日 価格:743円 オリジナル英語版:1986年出版 amazon.co.jp紹介ページ この本は近所に住む人が貸してくれたのです。とっても面白いからと、ポストに入れて置いてくれた。ポストに発見したのは3月12日の月曜日。読み始めたのは、その週の土曜17日の夜遅く。その間たった4−5日の間にも「本……読みましたか? 僕は、最近2度目に読んだんですが、もう一晩で読んでしまいました」ということだった。私のほうは2晩かかりました。 なるほど、読み始めてみると「面白い」。どんどん引きこまれて、しまいにはメモまでとり始めた。物語は、こうです。ニューヨークの小さなラジオ局で、ニュース・ディレクターをしている主人公ジェフは、43歳の秋に心臓発作で死ぬ。しかし気づけば18歳の学生に逆戻りしている。記憶と知識は元のまま、身体は25年前のもの。そこで、一度やった人生を再び生きる破目になる。ところが、1988年10月18日午後1時6分……つまり以前に死んだのと同じ、同年同日の同時刻に死亡するのだ。これが、なんと1度ならず繰り返されていく。 現実にはちょいと起こりにくい設定だが、少し飛躍して捉えると、輪廻転生のスピードをぐっと縮めてみたとも解釈できる。以前やった人生は江戸の昔のそのむかし……「め組」の火消しで名を馳せ、今回は平成の世……東京消防庁職員で表彰もされた、というのとは違って、記憶も知識も細部に至るまでしっかり頭に残したまま、あらがいようも無く18歳の若さに引き戻されてしまうというお話し。 主人公の人生は、その繰り返しの度にどんどんリファインされていき、そのうえ含蓄の深いものへと成熟の度を加えて行く。前回の人生で起きた失敗を避けるべく、主人公の生き方や選択の好みはより一層洗練されたものへと成長してゆく。また、前の人生でし残したこともかなえていく。その「し残したこと」というのが、読書だったりして、週5日間オフィスの鍵を閉めてしまい、そと見にはお仕事、実際には読書三昧という日々を堪能したり……。もちろんその都度、恋人やら妻とする女性も変わっていく。 確実に死んだつもりが、またしても(そう、またしてもなのだ……)この現実世界に引き戻されてしまう。仮にこれを輪廻転生にたとえれば、数千年にわたる生き死に、つまり「生まれ変わり」を、手のひらサイズに凝縮して見せてくれるというわけです。前世の記憶が消え去る暇を与えない。だから、いま流行りのチャネラーとやらのお世話になる必要も無い。当のご本人が、誰よりもよ〜く知っている。 そこで、何度も繰り返して、同じ時代を「生きなおす」うちに、主人公のジェフは自分の身に起きていることは、いったい全体何なのか? なぜこんなことが起きているのか? その理由を解明したいと、切実に願うようになっていく。そんなこんな或る日のこと、自分と同じリプレイヤーに終にめぐり合ってしまうのだった。変わった人生を歩む破目になっていたもの同士の邂逅(かいこう)である。ま、「究極の出会い」のひとつ……でもある。 そこで、出会った2人が一緒にやったことは何か? 自分たちのほかにも「リプレイヤー」としての人生を現に生きて居る人が、この「地球」と呼ばれる星の上に居るのではないかという探索の開始である。そうして、次に2人が行動を起こしたのは、これらの現象にキチンと納得のいく説明をしてくれる研究者を探すことだった。 この主人公の数回に及ぶリプレイは、著者が現実に体験した「意識の旅」を核に据えて書かれたものかも知れない。そのあたりが、妙に読者の共感を呼んでいる可能性もある。主人公は潤沢な資金のもと、謎に満ちた広告を打つ。リプレイヤーは意外にたくさんいるのではないか? ちょっとここで、私見ですが、実は「この本を世に問う」こと自体が、主人公の(実は著者の)願いを満たすものかも知れないという想いは、徐々につのってまいります。なぜ、この主人公のジェフ君が、潤沢な資金に十二分に恵まれているのかについては、本書を紐解いていただくとして……。 つぎに、ちょっと本文から私の心を捉えた部分を抜粋します。おつき合いください。 「2001年宇宙の旅」の改訂版とも言える「星の海」(スターシー)…… 大昔の人間とイルカの絆。太古に地球の海洋知的哺乳類との接触を確立した、哲学的な地球外生物。この地球外生物は、人類が銀河家族の一員として歓迎される準備ができるまで、この鯨目の動物を人類の情け深い後見役に任命したのだった。 しかし、20世紀の末に、復帰が何千年も待ち望まれていたこの白鳥座第4惑星の指導者たちは、ある宇宙的大災害のために滅亡してしまったことを、イルカたちは知った。それで、イルカは興奮と深い悲しみを同時に覚えながら、みずからの真の性格と偉大な歴史を人類に知らせた。 この惑星は、初めて真に一丸となり、陸上と海底の精神が結びついた社会になったが……ついに会うことのなかった地球の恩人が永遠に消滅してしまったので、荒涼とした宇宙で今まで以上に孤独な存在になってしまった、というのだ。 映画は高度の知識と、深みのある映画的洞察力によって、人間が究極の希望を理解した瞬間に、それを失うという、耐えられない皮肉を巧妙に伝えた。 本書からの抜粋は、以上です。山の中にこもって暮らし、下界のことにはトンと疎くなってしまった主人公が、或る日地元のおやじさんに薦められて、素直に映画館に足を運んだ日の描写です。この本の主人公ならずとも、わたくしなんぞ「うっかり信じてしまいそう」な映画のストーリー展開です。
さてさて、すっかりこの著作にハマッテしまった私は、この作家の別の本も続けて読んでみたくなりました。調べてみると寡作なんですね、この方。でも、日本語になっているのがもう一冊ありました。角川文庫『ディープ・ブルー』ケン・グリムウッド著 布施由紀子訳 1997年8月25日発行 485頁 価格:880円。ところがです、残念なことにすでに売り切れておりました。そこでネットで検索、なんと今は神田の古本街に足を運ばずとも、全国の古本屋さんがネットワークされているではありませんか。目的の書名を打ち込んでクリックするだけ。広島県廿日市市の文窓堂書店内の古書ネットで『ディープ・ブルー』初版本が一冊あるのを発見しました。価格は1000円、なにしろ絶版本なんだから、すぐさま発注です。これは3月22日木曜日のお話し。週が明けて3月26日の月曜日には冊子小包で届きました。本は新品同様で、そのうえ帯までちゃんと挟んでありました。なにしろ原書を読むわけにはいきませんから、ほんとに感動しました。 お話はぐっと飛んで、「人類の未来像を探る、美しく壮大なファンタジー大作:ディープ・ブルー」の初版本・絶版を見つけたのが、原爆被災地:広島の古書ネット。また偶然にもこの本の発注日と配達日を挟んだ3月24日の日曜日午後3時28分に震度6の地震が広島地方を襲いました。書店からのメールには「ほんとうに怖かったです。神戸の人たちの気持ちがよく分りました」と記されていました。 つい先ほど(4/10)…ちょうどこの本を古書ネットに発注のくだりを書いている時に「ぐらっ」と事務所が揺れました。テレビの字幕速報によれば「午前10時4分ごろ神奈川東部に震度3の地震」ということでした。母なる地球が、何か大切なことを私たち人類に「話しかける」とき、大地は地震という形で揺れているのかも知れない。してみると、災害という捉え方は一方的に過ぎるかも知れません。 『ディープ・ブルー』の訳者あとがきに、訳者の布施由紀子さんはこう書いています……輪廻転生をテーマにした傑作、『リプレイ』が1988年に第14回世界幻想文学大賞(The World Fantasy Awards)を受賞してから7年後(1995)、グリムウッドは、この(『リプレイ』)作中映画の構想をふくらませ、1冊のファンタジーを書き上げました。それが本書『ディープ・ブルー』です……と。どうやら『リプレイ』を、輪廻転生をテーマにした傑作、と訳者は言い切っています。 おしまいに: 『リプレイ』は1990年の初版以来11年目の2001年現在23刷を数え、部数32万8000冊に達しているという。昨日4月9日に新潮社編集部に電話して、担当者から直接お話を伺うことができました。電話で応対してくれたのは、若々しい感じの声の女性でした。 Q:「文庫でこの販売部数はいい数字だと思いますが、出版された新潮社側としてはどのような位置付けになっているんでしょうか?」 A:「はい、私どもの方でもいい数字だと思っています」 Q:「さきほど部数をお伺いしたのは、地味な文庫本なのに2‐30年にわたって版を重ねるうちに実は相当売れているという類いの本があるでしょ。それで、聞いて見たかったんです」 A:「これは、地味な本……ではありません」 Q:「そう、ベストセラーでしたね。ところで、どんな方たちに読まれているんでしょうか?」 A:「男性です」 Q:「はぁ、男性ですか……?」 A:「主人公が43歳の男性ですから……」 Q:「じゃ、主人公の年齢とオーバーラップする男性が読む!?……」 A:「はい、43歳で死んで18歳に戻るので、その年代の方が……」 Q:「なるほどね」 A:「それと……もう一回、というところに惹かれるようです」 Q:「わかりました。ところで、この著者の他の作品の出版計画はありますか?」 A:「今のところありません」……ということでした。
ケン・グリムウッド Ken Grimwood1949年フロリダ生まれ。カレッジでは英文学を専攻。パリ、ロンドン、ボストン、メキシコ、ロサンゼルスなど世界各地で暮らす。長年、放送ジャーナリストとして活躍。1976年"BREAKTHROUGH"を発表。『リプレイ』は第4作。 |